D.I
プラント事業 機械設計
(当時の所属)
入社20年目(プロジェクト当時)
プラント設備の設計経験を活かし、鉄構事業と連携して、ジャッキアップ装置の設計・製作を担当。
JOB & PROJECT
某年12月、某所で、首都圏に電力を供給する50万Vの送電線を支える送電鉄塔の基礎が沈下。鉄塔に大きな負荷がかかるこの状態が続けばいずれ鉄塔が倒壊し、大停電となり、多くの人の生活や経済活動に影響を及ぼす危険があった。
一刻も早く復旧しなければならなかったが、現場は険しい山岳地帯だったため、解決すべき問題が多くあった。検討を重ねた結果、デンロが実施したのは、これまでに例を見ない大規模な「ジャッキアップ工法」による鉄塔補修工事だった。翌年の積雪前の工事完了を目指し、プロジェクトチームが動きだした。
D.I
プラント事業 機械設計
(当時の所属)
入社20年目(プロジェクト当時)
プラント設備の設計経験を活かし、鉄構事業と連携して、ジャッキアップ装置の設計・製作を担当。
M.N
鉄構事業 タワーメンテナンス
(当時の所属)
入社12年目(プロジェクト当時)
現地工事の指揮・管理を担う。これまでも多くの鉄塔の災害復旧工事を経験。
T.Y
鉄構事業 鉄塔設計(強度設計)
(当時の所属)
入社2年目(プロジェクト当時)
当時入社2年目で、基礎が沈下した鉄塔にかかる負荷を測定する役割を担当。
S.M
鉄構事業 技術営業
(当時の所属)
入社9年目(プロジェクト当時)
営業として、社内外の窓口役と、全体の工程管理を務める。
デンロのクライアントである電力会社が現地の点検を行ったとき、送電鉄塔の基礎は約14cm沈下していた。原因は、秋に発生した台風の影響と考えられた。14cmといえば僅かに思えるかもしれないが、高さ約73m、重量約166tある巨大な鉄塔では、数cmズレただけで何十tもの負荷がかかるため、今にも倒壊するおそれがあった。実際にこの時、鉄塔の部材の一部分は変形していた。
人々の生活や経済活動を維持するため、鉄塔の倒壊は絶対に避けなければならない。そのためには早急な復旧作業が必要だったが、多くの問題が立ちはだかった。
第一に、現場のロケーション。標高1,000m近い険しい山岳地帯で、道が整備されていないために資材搬入が困難であり、作業員が現場に到着するのにも片道3時間かかる悪条件だった。
もうひとつの問題は、「どのように鉄塔を復旧するか」だった。復旧の方法には大きくわけて、「建て替え」と「補修」がある。鉄塔の損傷が激しい場合は建て替えが採用されることが多いのだが、その場合、新しく鉄塔を建てる土地の選定・確保からはじめなければならず、膨大な時間、労力、コストがかかる。今回のケースでは、緊急性やコストなどを総合的に考慮して、補修を行うことになった。そして、さまざまな条件を検討した結果、ジャッキアップ装置で沈下した鉄塔を持ち上げて、その隙間にプレートを挿入し、鉄塔にかかる負荷を取り除く「ジャッキアップ工法」が採用されることになった。
デンロはこの鉄塔補修プロジェクトを最重要案件と位置づけ、事業部門・部署を超えたプロジェクトチームを結成。主要メンバーとして、プラント事業からはジャッキアップ装置の設計・製作にI氏、鉄構事業からは現地工事を指揮・管理するN氏、鉄塔の倒壊を防ぐために部材にかかる負荷を測定するY氏、営業として社内外の窓口役と全体の工程管理を担うM氏が抜擢された。
メンバーは当初、「このプロジェクトは本当に可能なのか?」と感じたという。理由は、前例のない規模。過去にジャッキアップ装置を手がけたことがあったI氏も、「これまでに担当したのは200tを持ち上げられる装置でしたが、この時求められたのは600tだったので、戸惑いはありました」と振り返る。数多くの災害復旧工事を経験してきたN氏も、規模の大きさに驚いたという。また、当時入社2年目だったY氏は、自分に重要な役割が務まるのか自信がもてなかったという。
しかし、そうした不安は話し合いを繰り返すなかで、モチベーションに変わっていった。
「『この超大型復旧工事を無事故でやり遂げる』というプロのプライドがありましたし、インフラに携わる者としての使命感もありました」とN氏。
一方、電力会社とのやりとりを担当するM氏にも、絶対にプロジェクトを成功させたい想いがあった。「ちょうど、お客さまに鉄塔メーカーのメインパートナーとして指名していただいた頃で、期待が大きかったんです。高度な技術が必要なことはわかっていましたが、何としても期待に応えたかったんです」。
それぞれが胸の内に想いをもちながら、「鉄塔を復旧する」ミッションを果たすために動き出した。
I氏が鉄構事業と連携しながらジャッキアップ装置の設計・製作に取り組みはじめたところ、巨大な鉄塔を持ち上げる強度に加えて、山岳地帯の現場に適した構造にしなければならない問題に突き当たった。資材の搬送はヘリコプターで行うことになったものの、一度に運べるのは2tまでという重量制限があったため、装置を分割し、現地で組み立てる構造にしなければならなかったのだ。さらに、できる限りシンプルな構造にしてほしいという要望もあり、I氏はトライ&エラーを繰り返しながらクリアしていった。
「現場は平地がなく狭いので、小さな部品がたくさんあると紛失したり、どの部品をどこに取り付ければいいのかわからなくなるリスクがあるんです。だから、妥協せずに要望を伝えました」と、現場を知り尽くすN氏はいう。このように彼は、あらゆる事態を想定し、対策を練った。
当初問題だった現場までのアクセスは、最短ルートの開拓や自社製の簡易橋の設置などにより、片道1時間程度で到着できるようになった。これによって作業時間の拡張に加えて、作業員の負担軽減につながったのはいうまでもない。
工事に向けた工程に関しても工夫が凝らされた。通常は、社外関係者とのやりとりを経た全体工程の決定、鉄塔の応力解析、ジャッキアップ装置の設計・製作、現地工事の準備といった各工程を、ひとつずつ完了させていくのだが、それでは工事開始に間に合わないため、各工程を同時進行する方法が採られたのだ。営業として全体の工程管理を担うM氏は、このイレギュラーな対応について社内に根気強く説明し、理解を得ながら進めていった。
こうしてプロジェクトが進むなか、Y氏は工事が事故なく進むよう、工事中の作業で鉄塔の部材に掛かる力がどのくらい変化する見込みなのか、事前に把握することに努めていた。
どんなに綿密な計画を立てて対策を練っても、予期せぬトラブルは起きる。今回のプロジェクトでも、そうしたことは幾度となく発生した。たとえば、準備していた部材がうまく取り付かず、急遽別の部材が必要になったことがあった。部材の製作・納入には通常1週間ほどかかるが、このときは自社の東北工場が緊急で対応し、1日で納入まで完了させた。本件に対する全社的な協力体制ができていたからこそである。さらに、現場までのルートに設置していた簡易橋が、ジャッキアップ直前に大型台風の影響で破損。関係者全員、呆然となったが、すぐさまみんなで協力して復旧させた。このように、日を追うごとにプロジェクトに関わる人の一体感は高まっていった。
そしていよいよ、最大の山場であるジャッキアップの日をむかえることになった。
Y氏を中心に約60のセンサーが取りつけられた鉄塔が、I氏が設計・製作したジャッキアップ装置によって持ち上げられた。といっても一気に上げるのではなく、まずは1cm上げて鉄塔に異常がないか確認し、これを繰り返す。
固唾をのんでモニタの数値を凝視するY氏、Y氏からの連絡を待つN氏、ジャッキアップ装置と鉄塔を交互に見つめるM氏をはじめとする関係者。緊張感がどんどん高まっていく・・・・。
すべて異常なし、ジャッキアップ成功! 現場には自然と歓声と拍手がわき起こり、半年以上にわたって共に取り組んだ仲間が握手をして喜びを分かち合った。この時、M氏は電力会社の担当者から、「この工事はデンロさんでなければ成功しなかった。相談して本当に良かった。ありがとう」と、感謝の言葉をかけられたという。
こうして予定通り、鉄塔が沈下した年の翌年11月にジャッキアップ工事を終え、翌々年のはじめにすべての工事が完了した。このプロジェクトによって、約28カ月の工期短縮、大幅なコスト削減を達成。電力会社からは後日、感謝状と表彰状が授与された。
送電線によって送られる電気を利用する人たちは、こうした取り組みが行われていたことを知らない。しかし、プロジェクトメンバーには、使命を果たした達成感と自信、そして仕事に対する誇りが深く刻まれたのは間違いない。